ロボトレース競技規程の要点 — 設計に効く数値だけ抜き出す
機体寸法、コースの幾何、スタート・ゴールの構造、計測方式。ロボトレーサを設計するときに実際の寸法計算に入ってくる数値をまとめました。吸引の可否と粘着の制限も含みます。
競技規程は全部読む必要がありますが、設計中に何度も参照するのは一部の数値だけです。 ここではその部分を、どう設計に効いてくるかと一緒に並べます。
正本は必ずNTF(公益財団法人ニューテクノロジー振興財団)の競技規程を 確認してください。 このページは2024年6月1日改定版を前提に書いていますが、規程は改定されます。 大会前には正本と当該大会のページで差分を見てください。運営や表彰の基準は大会ごとに別規定です。
#機体規定
| 項目 | 制限 |
|---|---|
| 床面投影 | 直径 25cm の円に収まる |
| 高さ | 20cm 以内 |
| 自律性 | 完全自律。スタート操作のみ外部操作可 |
寸法制限で見落としやすいのは「走行中に形状が変わる機体も、変化中を含めて常時満たすこと」という 条件です。4WSやステアリング機構を持つ機体では、全舵角・全姿勢でφ25cmに収まる必要があります。 ロック角いっぱいに切った状態でタイヤが張り出す量を必ず確認してください。
キングピン軸まわりにタイヤが回る場合、半径 √((e + タイヤ幅/2)² + (タイヤ径/2)²) の円筒が 必要になります。この計算は現在ツール化を進めています。
競技中の改造は禁止で、許されるのは軽微な修理・調整だけです。プログラムの再ロード、ROM交換、 外部の開発装置やコンソールをつないで実行を指示することはできません。走行間にパラメータを 切り替えたいなら、機体側のスイッチで完結する設計にしておく必要があります。
#吸引は使える。粘着は使えない
ここは改定履歴があるので誤解が残っています。
- 吸引ダウンフォースは規程上OK。 旧「接地力を増すための吸引機構を装備してはならない」は 2023年度に削除されています。委員会は外力利用による接地力付加を設計に含めることを妨げないと 明言しています。
- 過度な粘着力をタイヤ等に付加してはならない。 これが現行の制限です。コース損傷につながる 粘着処理が対象です。
- タイヤの埃やごみを粘着テープで取るのは可。ただし摩擦力を増す目的の溶剤等は使用不可。
判定の勘所は「外力で押し付ける(吸引・空力)=OK/面に貼り付く・面を傷めるベタつき=NG」です。
#コースの幾何
経路計画、曲率制御、シミュレータ、センサ配置はすべてこの値が前提になります。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 走行面 | 黒(木材+つや消し黒塗料) |
| ライン | 白、幅 1.9cm |
| ライン全長 | 60m 以下 |
| 構成要素 | 直線と円弧の組合せ(ラインは交差しうる) |
| 円弧の最小曲率半径 | 10cm 以上(ライン中心基準) |
| 曲率変化点間の距離 | 10cm 以上 |
| 交差角 | 90°±5°、交差点の前後10cmは直線 |
| 傾斜 | 通常は水平。部分的に最大5° |
| コース外縁までの距離 | ライン中心から 20cm 以上 |
| 段差 | 製作精度により約1mm生じうる |
設計に効いてくるのはこのあたりです。
- 最小曲率半径10cmが、必要な最大舵角を決めます。これより小さい半径はコースに現れません。
- 曲率が連続変化する円弧が現れることがあります。 クロソイド的に曲率が変わり続ける区間を 想定してください。「直線+定曲率円弧」だけを前提にしたアルゴリズムはここで破綻します。
- 最大5°のバンクがあります。吸引の設計とサスペンションのない機体では、ここで接地圧が変わります。
- 約1mmの段差は仕様です。グリップや段差についての申し出は受け付けられません。
#スタート・ゴールの構造
用語を厳密に区別する必要があります。ライン ≠ マーカー ≠ ゲートです。
- スタートライン/ゴールライン:直線部に置かれる。ゴールラインはスタートラインの後方1m。 周回して、スタートの1m手前を通過するとゴールになります。
- スタートマーカー/ゴールマーカー:ラインの進行方向右側に貼付。
- コーナーマーカー:曲率変化点の進行方向左側に貼付。
- マーカー同士は重なりません。つまり右=スタート/ゴール系、左=コーナー系で読み分ける設計が できます。横向きマーカーセンサの左右配置はこれに合わせてください。
- スタート・ゴールエリア:両ラインの間の、ライン中心から左右各20cmの帯状領域。
- スタートゲート/ゴールゲート:内のり 幅40cm × 高さ25cm。
- 計測センサ:透過型赤外線。光軸は水平・床面から約1cmの高さ。
最後の1行が設計に直結します。機体が床上約1cmでビームを確実に遮る形状でなければ、 ゲートを検出してもらえません。極端に薄いフロントを持つ機体は要注意です。 ゲート幅40cm・高さ25cmは、φ25cm・高さ20cmの機体なら余裕で通りますが、 左右に張り出すセンサマストがある場合は通過幅を再確認してください。
#計測と失格条件
- 持ち時間 3分、その中で最大 5回まで走行。
- 1走行の流れ:スタート・ゴールエリア内から指定方向へスタート → 周回 → スタート・ゴールエリア内に自動停止し、2秒以上停止。
- 記録が有効になる条件は両方満たすこと:
- 機体全体がゴールラインを通過していること
- ゴール後にスタート・ゴールエリア内で自動停止すること
- 公式記録は各回の周回時間のうち最短。
失格・走行終了になる条件も明確です。
- コースアウト:機体の床面投影がライン上から完全に離れたとき。本体投影は常にライン上に 載っている必要があります。
- 2秒以上の停止でその走行は終了。
- スタート操作後、スタートラインに達する前に停止やコースアウトをしても1回の走行として消費されます。
制御側で必ず実装が要るのは自動停止ロジックです。ゴールラインを通過しただけでは記録になりません。 「全長通過 → エリア内停止 → 2秒静止」をステートマシンとして持つ必要があります。 同時に、意図しない2秒以上の停止は走行終了になるので、早すぎる停止判定は事故になります。
#環境条件
照明・温度・湿度は通常の室内環境で、照明調整の申し出はできません。ライン検出とマーカー検出は 外乱光の変動に頑健である必要があります。LEDのパルス駆動と同期検波、あるいは環境光の 差分読みを前提に設計してください。
#設計前チェックリスト
- 全舵角・全姿勢で床面投影 φ25cm 以内/高さ 20cm 以内
- スタート操作以外に外部通信・外部情報入力がない
- 競技中に改造せず、機体側の操作だけで走行を完結できる
- タイヤに過度な粘着・溶剤処理をしていない
- 最小R=10cm・曲率変化点間≥10cm・90°±5°交差・連続曲率・最大5°バンクを想定した走行制御
- ライン幅1.9cm・全長≤60m を前提にした検出と経路
- スタート/ゴールマーカー(右)とコーナーマーカー(左)を正しく弁別
- 床上約1cmの透過ビームを確実に遮る機体形状
- ゴール判定=全長通過を確認、その後エリア内で自動停止し2秒以上静止
- 外乱光に頑健なセンシング
#参考
数値や語が食い違ったときは日本語正本が優先されます。
間違いや、もっと良い方法があればX(@AsachiMakes)まで教えてください。Guideの一覧へ戻る